夏休みの授業回数を増やす条件、その1。

まずは学校から出される課題を授業中に全て終わらせること。

期日――2週目の金曜、つまり8月9日までに。


何がキツイって、市販の問題集なら巻末や別冊に解答がついてるが、学校の課題はそうはいかない。

答え合わせをするためには、こっちも一緒に――しかも彼女より短時間で正確に――問題を解かないといけないのだ。


さらに、普段教えている英語と数学以外の教科も付いてくる。

古典、物理、化学……大学の英文科の授業にそんなものはないし、元々高い学力を持つ現役高校生を相手に、それでも教師の威厳をかけて負けるわけにはいかない。


「夏休みの宿題で授業を消化するなんて、教師として怠慢じゃない? センセー」

もう何度目かも分からない朱莉からのツッコみに、もう何度目かも分からない同じ答えを返す。

「放っておいてもキミが全力で課題に取り組むんなら、予習にあてたいとこだけどね」

「私はいつでも全力」

「はいはい、さっさと指示したところやり直す」


手抜きどころか非常に神経をすり減らしてチェックしていることに、彼女は気付かないんだろうか。

まるでトラップを仕掛けるようにさも正解らしい間違いを仕込んでくる彼女の解答に騙されることなく正確な答え合わせをするのは、とにもかくにも骨が折れる。


正解らしい間違いをわざと仕込める辺り、彼女は本当に頭がいい――性格には難ありだが。