――『センセー、日本離れるって本当!?』


……あの時。

突然の電話に、心が揺らいだ。


『どうして? だって言ってたのに』

海外になんか

『呼んだらいつでも来てくれるって!』

行かなくてもいいんじゃないかって。


親父も言っていた、結論を急ぐ必要はないと。

裕也も木嶋も言っていた、何も今じゃなくてもと。


俺は確かに瀬戸朱莉に言ったのだ。

『お前が呼んだらいつでも行ける様に、暇にしておいてやるよ』と。

約束、していた。


だけど――


『だってお前、全然呼んでこねえし』

ただ待っている間に、全て終わってしまいそうで。

『もう待ちくたびれた』

『そ、れは……っ!』


本当はもう俺の手なんか必要ないんだって、言い聞かせて。

そうやって自分を納得させて、無理やり抑え込んでいた。


『呼ぶ気、あった?』


ほんの少しだけ、朱莉の気持ちを試したくなっただけだった。

でもその言葉が、責めるような口調になってしまったのは確かだ。


『だってセンセーが……!』


電話越しだったから、よく、分からなかった。

でも切羽つまったようなその声は今にも泣き出しそうに聞こえて、心臓が悲鳴をあげた。