「隼人、本気なの?」


――真面目な話。


確かに飲んでしまわなければ、腹を割って話せないのかもしれない。

いつだって俺たちは、適当に緩く面白おかしく過ごしてきたのだ。

だからこういう空気は、正直慣れない。


それでも居心地の良い仲間のなかに、確かに芽生えていた絆があって。

だから2人が言いたいことも、よく理解できた。


「一緒に卒業できなくなるんだよ?」

「そーだよ、何も急がなくたって!」


分かっているさ。

俺だって、別に簡単に決めたわけじゃない。

ただ、今、そういう岐路に立っているのだと思ったんだ。


不意に示された新しい枝道の前で立ち止まった時に浮かんだ、『分岐点で迷ったらより険しい方を選べ』とは――、憧れつづけたあの人、菅井先生の言葉だった。


目指す目的のために、一切の甘えを捨てなければならない。

それが今なのだと、思ったんだ。
『いつか』ではなく、『今』だと。


「決めたんだ」


ひと言。
それから、手の中のグラスをあける。

よく冷えて金の気泡をあげているビールが、食道を刺激しながら下っていった。


「夢があるから」


こんな台詞を。

確かに小っ恥ずかしくて、素面じゃ口には出来ない。


「さみしいじゃねえか」と泣きついてきた裕也を足蹴にしたら、「私もさみしいわ」と木嶋が妙な科を作った。

残念ながら色気はない。


「戻ってきたら、先輩って呼ばす」

「お前が無事進級出来てればな」

「うわあ、それ笑えないよ進藤くん!」

結局最後は、全員で笑い飛ばした。


――4月になったら、休学する。

ただの短期留学などではなくて、ワーキングホリデービザで2年間。

現地で働きながら、言葉と文化と社会の仕組みをまとめて学ぶために。