『センセ
まだ起きてる?』


日付もとっくに変わった深夜だが、俺は最後に投げたメールの返事を気長に待っていたから、当然起きている。


『もちろん。どうした?』

『帰ってきました
今下で
母が話してる』


普段は深夜の帰宅を待たずに先に寝ていることが多い妻が起きているのを見て、朱莉の父親はかなり驚いたようだった。

直後、久しぶりに見る調子の良さ気な妻の様子を見て表情を和らげ、

『すっごく嬉しそうに笑ってました』

と、朱莉は報告する。


今日、妻に最近茶飲み友達(母さんのことだ)が出来たということを、彼は初めて知ったようだ。


『あの様子なら
計画実現できるかも』


家庭から目を逸らし逃げ続けていた父親が、妻とその友達一家と連れ立っての外出。

これが実現出来ること前提の計画だったが、そもそも一番のネックになっていたのはそこだった。


『うまく行きそうか? 良かった。とりあえず一安心だな』

『うん
センセーたちのおかげ』


深夜の彼女の返信は速かった。

そう言えば前に、そんなことを木嶋も言っていた気がする。


『俺は何もしてないよ』


ただ母さんの計画を朱莉に伝え、朱莉からの連絡に対してメールを返していただけだ。

ここまで頑張ったのは母さんで、実行日が決まればそこで頑張るのは親父で、その後に頑張るのは朱莉の家族だ。


『俺は何も出来ないけど、その代わり話はいくらでも聞く』


返信を待たずに立て続けに送ったそのメールからしばらくの間を置いて、


『ありがと
























暇人センセ』


妙に行間のあいたメールが返ってきて、俺は少し笑った。