だいぶ暗くなってきたので家に帰ることにした。
門をくぐろうとすると、声を掛けられた。
声の主は隣に住むモリサキ伯爵夫人だった。
「おばさん。こんにちは」
サラが挨拶をするのに合わせて、後ろに立つサカキがお辞儀をする。
「こんにちは。寒くなってきたわね。風邪ひいてない?」
「大丈夫です」
「よかったわ。・・それでね、あなたに渡したい物があるのよ」
「わたしに?」
「ええ。この間、家に遊びに来てくれたときにおいしいって言ってくれたから、調子に乗ってまた作っちゃったの。よかったら食べてもらえるかしら」
そう言って小さな箱を手渡された。
底が暖かい。
「サカキさんも是非食べてくださいな」
「ありがとうございます」
「おばさん、ありがとう」
モリサキ伯爵夫人はサラの頭を撫でると、手を振って自分の家の中へと入っていった。
扉が閉まるのを確認して、サラは口を開いた。
「わたし、アップルパイあまり好きではないのよ」


