サラが目を覚ましたとき、外は生憎の雨だった。
「・・・・・何時だ」
時計の針は二時を指していた。
外の様子からして、午後の二時。
「・・・寝すぎたぁ」
一日の半分以上を寝てしまった。
なんとなくショックである。
癪だが、あの女の事で悩んでいるのかもしれない。
・・・いや、サカキのほうかも。
・・・とりあえず何か飲もう。
そう思って、ドアに向かったときだった。
「ん?」
何かある。
机の上。
寝る前には確か何も置いていなかった。・・・はずだ。
「何でバイオリンがあるの?」
自問。
手に取ってみる。
いつ置いたのか全く心当たりが無い。
サカキが置いたのかもしれないという考えが浮かんだ。
「いや、それはない。ピアノもまだまだなのに別の楽器なんかやらせてもらえるわけがない」
彼はそういう人間だ。
「じゃあ、誰?」
弦を弾いてみた。
「・・・・・」
弓を握る。
顔の横に持ってくる。
弦の上に乗せる。
一呼吸。
そして、弦を押さえながらひいた。
腕が止まらない。
知らない楽譜が頭に浮かび上がる。
すぐそこで柔らかな音がする。
まるで、自分じゃないようだ。
この感覚を知っている。
書斎で目を覚ましたときも、モリサキ邸でアップルパイを食べたときも、あの女に落とされそうになったときも・・・ついさっきも。
「嫌っ・・!」
次の瞬間にはバイオリンはベッドの上に落ちていた。


