後ろを振り向くのが少し怖くて、鼻をズッと啜ると振り向かずに、
「だ、…誰?」
と恐る恐る口にする。
でも、それに返ってきたのは答えじゃなくて、スッと差し出された彼の手だ。
「これ、使えば」
その言葉と共に彼の手に握られているハンカチが目に入る。
何故か少年が好むクルマの絵が描かれたハンカチ。
多分、これで涙を拭けって事なんだと思う。
「あ、ありがとう」
そっと受け取ったそのハンカチでギュッと目頭を押さえる。
じわじわとハンカチに吸い込まれていく涙。
涙と一緒に、今の気持ちも吸い込まれて消えてくれたら良いのに。
そう思った瞬間、呆れた様な声音が降ってきた。
「今何時だと思ってんの?」
言われて前を向けば、目の前は真っ暗。
チラチラと道路を照らす外灯の光が眩しい。
けど時間は……、何時なんだろう?
「……夜」
それしか答えられない。
いや、今は夜だ!
時間は分からないけど、夜という答えは間違ってない!



