佑真君の視線は私の手にあるノートに注がれていて。


今からサインを書いてやるという事なのだろう。



「お願いします」



ぺこっと頭を下げてノートを渡す。



「ペンは?」


「ははぁ。ここに」



そう言われると思って一緒に鞄から出しておいた黒のペンを差し出した。


私の中で将来の有名人は、お代官様みたいなもの。


だから、そう言って頭を深々と下げたんだけど、佑真君にとっては馬鹿過ぎる光景だったらしい。



「ぷっ……。バーカ」



めちゃくちゃ馬鹿にされてるよ。



ノートを裏返しページを捲ると、何も書かれていない所に佑真君がサラサラとペンを走らせる。



「ほら、書いたぞ」


「ど、どうも」



返されたノートとペン。



本当にサイン貰っちゃったよ!


本気で嬉しいかも……。



嬉しさからノートを胸にギュッと抱き締める横で、ザッと音がする。


佑真君が歩き出した音だ。