「もう、いいよ」
そう言いながらぶすっとして、差し出していたノートを鞄へと戻そうとした瞬間、
「しゃーねぇから書いてやるよ。サイン」
そんな少年の言葉が耳に届く。
「ほ、本当に?」
「本当」
何で書いてくれる気になったのかは、分からないけどラッキーだ。
「よしっ!」と小さくガッツポーズをとると、クックッと少年の笑い声が聞こえる。
馬鹿にして笑っているのだろうけど、今回は許してあげよう。
サイン、貰えるしね!
「じゃあ……」
そうおずおずと再びノートを差し出そうとした時、少年がピンッと顔の前に人差し指を立てた。
「但し、条件付き」
「条件?お菓子でも欲しいの?今、私飴しか持ってないよ」
「お菓子じゃねーし」
お菓子以外で小学生が欲しい物が分からない。
「じゃあ、何?」
首を傾げれば、ニイッと白い歯を見せ私の耳に口を近付けて、
「俺の事、名前で呼べよ」
そう呟いた。



