妖精さん!!   第1段階目

先生は私から目線を逸らして橙色の窓を見つめた。
先生の眼鏡がそれを反射する。
先生。こんなときでもカッコいいと思ってしまう私はバカなんでしょうね。

「言ってなくて、すまなかった。」
「…ひとつ聞いて良いですか?」
先生は黙ってうなずく。
窓の向こうは橙から群青に変わり始めていた。
入ってきた風がこの季節だからか、少し肌寒く感じた。
「…最後にキスしてくれたとき。あのときから先生たち付き合い始めていたんですか?」

最後にキスをした日。
いつもと違って濃くて、長くて。
そして、“愛している”と“すまん”を交互にキスしている最中にずっと言ってた。
少し不思議に思ったけど私はそのときなにも言わなかった。

それ以来、“好き”も“キス”も無くなった。
そして今日。
ホームルームで、先生が言ったのは彼女さんとののろけ話と…
その人と結婚するってこと。
まわりの男子とか女子とかは
“のろけ勘弁ー!!”とか“えー結婚とか残念すぎぃー!”
とか言ってたけど私はそれどころじゃなかった。
表現するのは難しいけど、本当に頭が真っ白になった。



時計をみたらもう五時近くをさしていた。
「そうだな。その頃には、付き合い始めていた。」
「……あ、あはは。せ、先生、私と一線越えてなくてよかったですね。」
「…先生と生徒じゃなけりゃあ、越えてたかもな。」
さらっと凄いことを言う先生に目を見開く。
「二十五と十四ですよ?!っていうかそれ犯罪じゃないんですかね?」
「ははは。だってお前が可愛いからさぁ、どうも変態教師はそんなことを考えてしまうのですよ。」
ははは、なんて笑いながら言う先生。「…もうやめてくださいそういうの。」
あくまでも私は笑ったように言う。
「今度言ったら、奥さんに浮気してるっていいつけますよ。」
「おーおー蛍さんは怖いねぇ。」
先生の前では
「先生」
先生の前では
「なんだ?」
泣かないようにしないと
「明日も先生の英語の授業受けてもいいですか?」
「……もちろん」
私は顔を下に向けたままカバンを手に取る。
「じゃあまた明日!!」
満面の笑みでいったつもりだけど、出来てたかな。
「おう、また明日。」
私は先生の声が聞こえるか聞こえないかというところで、教室を飛び出していた。
目に入り込んでくる群青が目に染みた。
そんな群青がうざったらしかった。