「何言ってんの。本屋ならあるわよ。」
引っ越し業者が去り、山積みになった段ボールの向こう側に聞こえた声。
これから生活する場所だというのに
今のこの状況じゃ、どんな部屋になるかも想像出来ない。
俺はその言葉を聞き、新聞紙に包まれた食器を乱暴に床に置いて立ち上がった。
「どこに!?俺、欲しい漫画あるんだけど!」
「どこって、駅前よ。」
母さんは動かす手を止めずに答える。
「駅って?ここからどんくらい?」
「…そうねー、歩いて40分くらいじゃない?」
「はっ!?40分!?」
驚いて思わず大きい声を出した俺に、母さんはひょっこりと顔を出した。
「いい所でしょ、ここ。」
ポカン、とする俺に
母さんは満面の笑みで笑う。
嫌味たらしい笑顔が、憎たらしい。
って、まさか。
冗談がすぎるよ、母さん…。

