「ここまで送ってくれてありがとう、田中さん。電話したら迎えに来てね」


「はい。お気を付けて」


この毒舌執事と違って、田中さんはとっても礼儀正しくて、爽やかで、良い人だ。


この毒舌執事とは違って!



車が走り去ると、私の半歩後ろにいた筈の透が、私の横、…ううん、若干前に出て来た。



「じゃ、いくぞ」



突然変わった透の態度に、私は困惑するばかりだ。


でも、私は思い出した。


彼の言葉を。


『その間は俺とお嬢様の関係は執事と主じゃないですからね』



あのことばは、こういう意味だったのだ。


確かに、今は執事と主の関係ではなくなっている様だ。



「何ボケっとしてんだ。置いてくぞ」



「あっ!! ごめんなさい!」


既に彼は私より5メートルは先にいた。


いつもは私の歩くペースに合わせてくれていたから、まさかこんなに歩くのが早いなんて思わなかった。


今日は、知らない透を沢山見る。