夏祭りはごく普通のお祭りのようだった。

神輿を担いで練り歩いたり、盆踊りをしたりすることはなく、ただ出店が少しだけ並び、行商人が町からやって来て、村では見ることのない目新しい品々を売る。

村の女達が、行商人が唯一やってくる祭の日を楽しみにしていたらしい。

娯楽のない、寂しい村の、年に一度の楽しいイベントだったのだろう。

その光景が頭に浮かび、微笑ましい気分になった。

ここまで読んだ所で川原さんが声をかけてきた。

「まだそこなの?いつもより読むペースが遅いのね。」

そんなことないと言おうとしたが、時計を見ると、読み始めてから1時間が経過していたのに気付き、あれ?と思った。

確かに遅い。

本来ならこのくらいの、読むのに何の支障もない書物なら、1時間あればもっと読めている。

「おかしいな?」

思わず口をついた言葉に、川原さんが馬鹿にした様な視線を投げた。

「読むべきなのはそこじゃないのよ。」

そう言うと、ページをパラパラと捲った。

「ここから読めばいいわ。」

そのページを見たとき、胸の奥の方がざわつく気がした。

何より、開かれたページが、異様なほど黒い染みに侵食されていて、触れるのをためらう自分がいた。

それでも、早く読みなさいとでも言いたげに僕を見ている川原さんの手前、読まないわけにはいかず、黒くなったページに手をかけた。

一瞬、ゾクッとするほど冷たく感じたが、気のせいだったようだ。

『村の入り口には巨大な岩がそびえ立っている』

その記載から読み始めた。