僕より一時間程遅く来た教授は、部屋に入ると直ぐ様僕の顔を見て少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

片付けられるのが何故嫌なのかは謎だが、僕は「何か問題でも?」と言う顔をして見せた。

教授は何も言わず椅子に座ると、古くてガタのきている椅子からはギシギシと嫌な音がした。

買い替えればいいのに、と思っていたら、廊下をバタバタと走る足音がこちらに近付いてくるのが聞こえてきた。

足音と共に激しい音をたててドアが開くと、川原さんが紅潮した顔で室内に飛び込んできた。

そのままの勢いで僕のところまで来ると、可愛らしい小花柄の紙袋を差し出し、グイグイと押し付けてきた。

「あなたも早く読みなさい!大発見よ、これは!」

そう言うと、教授の元へと行き、二人で興奮気味に話を始めた。

僕は二人を尻目に、渡された紙袋から書物を取りだし書かれている文字へ目を落とした。

線の細い、女性が書いた様な文字が流れるように記されていて、僕が苦戦している物とは大違いでとても読みやすかった。

その書物は忌隠村の由縁から始まっていた。

忌み嫌われる者を隠す為に出来た村。

そこから忌隠村と呼ばれるようになり、その名が定着したらしい。

忌み嫌われる者とは恐らく、奇形で生まれてしまった人や障害を持って生まれてしまった人の事だろう。

昔はそういう人達は家の恥だと言われ、隠されたり、ひどい場合は人知れず処分されることがあったと聞く。

異形の者は悪。

そういう考えだったのかもしれないが、今を生きる僕には理解しがたい。

小さい集落では血が濃くなるという話を聞いたことがある。

新しい人が入らないから、親族同士での結婚が増えてしまい、結果的に一族の血が濃くなる。

望んでそうしているわけではないが、濃くなった血は異形を生みやすくなり、必然的にそういう子供が多く出てしまう。

それがプラスに出れば、その子供は神童と呼ばれる程に才能に恵まれた子供になるが、そうなるのは稀だ。

綺麗な文字に反して、あまり僕の好みではない文面が綴られているこの書物を、もうこれ以上は読みたくないと、僕の中の何かがシグナルを出していた。