「教授のお許しを頂けるなら、持ち帰って読んでもいいでしょうか?一晩で終わらせますので。」

川原さんはそう言うと、教授からあの書物を借りて帰っていった。

どうやらあの書物は、教授が手に入れた私的な物で、持ち帰る際に大学への許可申請は不要だったらしく、川原さんが嬉しそうだった。

「申請嫌いなのよね。形式的に書かせてるだけの癖に記入事項ばかり多いし、待ち時間は長いし。あんなの時間の無駄としか思えないわよ!」

前にそんなことを言っていたのを思い出した。

川原さんは『時は金なり』を座右の銘にしている。

だから待ち時間の長さなどは時間の無駄としか思えないのだろう。

僕はのんびりした性格なのか、待ち時間も苦にはならないのだが、それを口にしたときの川原さんの見下すような顔が容易に浮かび、まだ口にしたことはない。 
「明日持ってくるから、長谷川君はここで読んでしまえばいいわ。あなた、読む早さだけは素晴らしく早いから出来るでしょ?」

否定を許さないような口調だったので、僕は笑いながら頷いた。

読むよりも教授に内容を聞いてしまえば早いのに。

口からでかかった言葉も一緒に飲み込んで、僕は苦戦を強いられている書物へと再び目を落とした。

良く分からない廃村の事よりも、この書物を読み進めたいのだが、まあ仕方がない。

旅費等に関しては教授が全て出してくれるのだし、運動不足の体には丁度良いだろう。

自分にそう言い聞かせながら、僕はボロボロの書物の世界へと入り込んでいった。