踊る影、があるのだと言う。


それは真夜中。
人々の息が潜められ、闇が力が蠢く時。
影が踊るのだ、暗闇の中で。


その影の持ち主は、遥か彼方の異邦人だった。異邦人は、自分の命が尽きたのにも気付かず、ただ闇が支配する真夜中に、影だけで踊るのだ。

けれどその光景は、悍ましくもなく、悲しくも、恐怖すらも感じさせなかった。
闇が影を隠してしまうから。

異邦人は気付かない。
何時の日か、遥か彼方の自分の場所へ還る為に。
影は踊るのだ。









跳ねる影、があると言う。


それは真昼。
人々が活気に満ち溢れ、闇はただの日陰へと隠れる時。
影は跳ねるのだ、日だまりの中を。


その影の持ち主は、遥か遠くから降り注いだ星だった。
星は気付かない。自らは燃え尽きている事を。
それでも星は跳ねる。
時折、人々の目に触れ、彼らの願いを聞くように。


星は気付かない。
遥か遠くから降り注いだ時に、燃え尽きていることも。



だが、影は跳ねる。
大空をゆったりと跳ねる。



いつか、遠い我が天に帰れる事を信じて。










踊る影、跳ねる影。




END