殺人姫

もうとっくに限界を迎えている、休ませてくれ。そんな事を訴えているかのように、足がガクガクと震えた。
もしくは、恐怖心からか。

「立って、お願い、お願い…おね」
「ムダだァ」

そこに居るのが当たり前かのように、ここで私が膝つき力尽きるのを待っていたかのように、私を眼球だけで見下ろす殺人鬼。
酷く歪ませた口端。私が死んだアトを想像して酔いしれているかのように見えた。

右手にナイフを光らせる、間違う事なき殺人鬼。年は私より2、3歳程度しか違わないであろう青年。
持っているナイフは、それというよりダガーのように長く、私に突き刺さらんとばかり先端が輝く。

男が、上唇を肉の塊を前にした獣のようにベロリと舐めた。

「終いにしよう、飽きたぜ鬼ごっこ」
「いっ…あぁ、やぁ…」

走馬灯とは死に向かう人間に平等なのか。

最初に浮かんできたのはパパ、ママ。
色々喧嘩もしたけど、楽しかった毎日。一人っ子だったけど寂しくなんかなかったし、幸せでした。

次に友達。
愛理、やっさん、はるか、玲奈。馬鹿な事で笑いあって、すっごく楽しかったよ。皆みんな、大好きでした。

「精々イイ声でナけよ」
男は、目までもが歪み出した。


部活でよく練習に付き合ってくれた林田くん。あなたの笑顔が大好きで、友達に相談したりしてたのに、結局告白出来ないままだった。フラれるのが怖かったからだけど、今ならそんな事怖くない気がする。
死ぬ前に、告白したかった…。

―――いや


「じゃあな」


私、まだ死んでないよ?