あの場所で。

【愛結side】


楓が私から離れて、部屋に戻ったのを確認すると、その場にしゃがみこむ。



『………母親に捨てられたんだ』



いつもと違う、あの弱々しい声に思わず涙が溢れそうになった。



でも、私なんかが泣いてはいけないから。それをぐっと堪えて、楓の話を黙って聞いていた。



前に、楓が私に『支えてやりてぇ』って言ったように、私も『楓のことを支えたい』と思った。



そして、なにより私に過去を話してくれたことがどうしようもなく嬉しくて。



何故嬉しく感じたのか気になったけど、考えるのをすぐにやめる。



多分、それは気づいてはいけない感情だから。



そもそも私は、そんな感情なんて持ってはいけないから。



「ふぅ……始め、よっかな……」



一度深呼吸をして、忘れろ、と心に言い聞かせると、またカレーを作り始めた。