「香奈?何してるの?」


あたしたちのすぐそばの校舎の一階。

その窓から顔を出したのは香奈だった。

長い黒髪が、風に揺れる。


「何って、夏実が愛華の所に行くって言うから来たんだけど。夏実、靴履き替えたの?よくそんな面倒なこと出来たね」


香奈は、外に出る気はまるでなさそうに言った。


「あれ、夏実すねてる?」

「あー、うん。そうなんだよねー。実は…」

「愛華に箱で顔面ばちーん」


あたしが言うより早く夏実が言う。

決して正しい文章ではない。

まるで、あたしが無差別に夏実を叩いたように聞こえる。


「……愛華、チョコあげなよ」


香奈は大きなため息1つついて言った。



「え?チョコ?」

「その手にあるもの」


香奈は、あたしがついさっき貰った箱を指さした。

もしかして………。


「夏実、チョコが欲しくてあたしの所に来たの?」


香奈は涼しい顔で頷いた。