「よろしくね」


あの心地いい声で、椅子に座りながら隣の女子に話しかける風崎祐。


「よ、よろしくっ」


緊張したような声で答えるその子。

やっぱり、一目惚れしたんだ。

風崎祐が椅子に座ったと同時に、彼の背中をちょんちょんっとつつく。

彼が振り向く。


「愛華です。よろしくね」

「よろしく」


心地いい声があたしに向けられる。

なんだか、頬が自然に緩む。


「結構中途半端な時期の転校だよね」

「親父の仕事でさ」

「そうなんだ!大変だねぇ」

「もう慣れたんだけどね」


時間にすると3、4分くらいなんだろうけど、あたしは1時間くらいに感じられた。

彼の関心が、全部あたしに向いているのが嬉しかった。


「ね、祐って呼んでいい?」


気持ちが先走って、唐突にそんな事を言ってしまった。

ガッツいた女って思われたかな…。

恐る恐る風崎祐を見ると…。


「別にいいよ。じゃあ、俺も愛華って呼ぶな」


ほんの少し照れたような顔で祐は言った。