話す理由探してた。
水城が牛乳飲んでくれた?
私ってツイてるのかもしれない。
話す理由見つけられた!


「水城っ!!」
今日はちゃんと牛乳を飲んで
水城に話しかけた。

「何? てか、声デカイ。」
珍しく、水城は机にもたれかけていただけで、寝ているようではなかった。
…感心していないで、飲んでくれた聞かないと。
「もしかしてさ、昨日、牛乳飲んでくれた?」
私の心臓はばくばく鳴っていた。
水城にまで聞こえるかもしれない…。

「は? なんで?」
水城は「何言ってんだよコイツ」みたいな態度で私の顔を見てくる。
「だって、今日の朝遅刻して来た時、周りの男子がそんな事言ってたじゃん。」
私がそういうと、水城は顔をしかめて小さな音で舌打ちをした。
「あー、うん。」
肯定した。ってことなのかな。
だったら伝える言葉はただひとつ。
「ありがとう!」
私は心の底からの感謝の気持ちを水城に伝えた。
「…なんで?」
水城が謎めいた顔で私の顔を見てくる。
「だって、水城のお陰で残量0!」
私は片手でブイマークを作った。
「はいはい。一々元気なやつ。」
私のブイマークを見ると呆れた様に笑った。
でも、その顔は作り笑いなんかじゃなくてちゃんと笑ってるものっだて分かった。

水城が笑った。

「…笑った。」
私は思った言葉をそのまま呟いていた。

「え?」
水城が不思議そうに聞き返す。
「水城が笑った! ってだけの話!」
私との会話で笑ってくれたことが心の底から嬉しくて、私は笑顔で水城にそう言った。

水城の笑顔はこれで2回目――。

「? あそ。 篠崎(安奈)はよく笑うよな。」
初めてかもしれない。
水城が私に話しを振ってきたのは。


「そう、かな?」
緊張して上手く言葉が返せない。
変だな。
昨日一昨日まであんなに食って掛かってたのに。
状況というか、空気が違うとここまで態度が変わってしまう。
「そうだろ。ずっと笑ってんじゃん。」
ずっと笑ってる、って。
そんなこと知ってくれてるんだ。
「だって、毎日楽しいもん。」
毎日楽しい。今も楽しい。
私はふふっと笑った。
「ふうん。」
水城は興味なさそうだった。
「それに、笑ってたらいい事ありそうでしょ?」
私の笑顔は耐えることを知らない。
口角がずっと上がりっぱなしだ。
そろそろ口角が痛い…。
けどこの時間が続くのなら全然耐えられる。
「へーえ。」
水城は生返事。
「うわ、どうでもよさそう…」
私がショックを受けたフリ(内申ほんとにショック)でそう言うと、
「ま、篠崎みたいにずっと笑ってたら
毎日楽しいだろうな。」
笑いながら私にそう言った。
その言葉が少し引っかかった。
「……水城は楽しくないの?」
「俺? 別に、…うーん。まあ、楽しいけど? 」

「笑ってたらいいことあるよ! さっきみたいに笑ってみなよ!」
私がそう言うと、
水城は一瞬目を丸くして「ハハッ」と笑った。

「お前、面白いな。」
唐突に水城がそんなことを言った。
「え?」
今度は私が目を丸くした。
「思考回路単純すぎ。」
それ、馬鹿にしてますか?
でもここで怒る私じゃない。
「えー、ダメかなー??」
逆に水城に問いながら頬を膨らませた。
「ダメじゃないけど。むしろ、いいと思うけど。篠崎らしくて。 」
「…そ、そう、なの、かな…?」
思いがけない水城の言葉に上手く言葉が出てこない。
「そうなんじゃない?」
疑問系かよ…。
「曖昧じゃないか!」
私がどくれるようにそういうと、また水城が笑った。

「やっぱお前面白いな。」
水城が笑顔を絶やさない。
「褒め言葉として貰っておく。」
今日水城が言ってくれた言葉絶対忘れない。
私が冗談交じりにそう言うと、
「そうして」
水城は笑顔だった。

今日、今この時間、水城と話して分かった。
「水城、意外としゃべるね。」
「?? 俺、しゃべるよ?」
驚いたようにそう言った。
「え、今まであんま喋らなかったじゃん。てか、そんなに喋ること見たこと無いけど…」
水城の言葉を私は否定した。
だって本当にあまりしゃべるとこ見たことないもん。
「あー、俺ちょっと人見知り、だし、心開かないとあんま喋ら――…… 」
今、なんていった?
心開く?
「いや、心開くっていうか、慣れるっていうか、あ、面白かったら結構しゃべるからっ。それに、篠崎喋りやすいし!」
自分自身口から出た言葉に驚いていたのか、水城はとても早口だった。
「あ、うん。そういうことね。」
私は水城があわてて早口になってるのが、おかしくて仕方なかった。
「そゆことです。」
水城は、もうおかしなことを口走らないようにか、また少し無愛想になった。
それでも私は嬉しかった。
今までの無愛想を今の無愛想は全然違う。
仲良くなったゆえの無愛想。


でも、さっきの言葉にはびっくりした。
『心開かないとあんま喋らない』
って、言おうとしてた…?
やっぱり、仲良くなったって思ってもいいんだよね…。

「水城、意外と素直。」
私の言葉に、また水城は驚いていた。
「え?」
なに?って目で水城が訴えてくる。
「いや、なんでもない。水城も意外と喋りやすいね! もっと怖い人と思ってた。人相悪いし。」
私はなんだか照れてしまって、思ったことを全て言ってしまった。
「最後一言余計だろ。」
私の言葉にすかさず水城が突っ込みを入れる。
「スミマセン。」
「許す。」
「…。」
「…。」
私達は顔を見合わせて笑った。
「はははっ!」
「はいはい。」
返事は無愛想だけど水城もちゃんと笑ってる。

なんて話し合ってると、美咲が私を呼んでいた。
「次、体育だから行ってくるー」
もうちょっと話ていたかったな。
でも授業に遅れるわけにはいかないしね。
「がんばー。俺、ちょっと寝る。」
水城も同じ体育なのに、着替えなくていいのかな。
疑問に思ったけどここで質問してしまったら、本当に授業に遅れてしまう。
「人事のように……。昼寝の邪魔して悪かったねー。」
一応、昼寝の邪魔をしたかもしれないから謝った。
「 いいよ、面白かったし。 」
これは予想外の言葉。
「…。」
思わず声が詰まってしまう。
「俺、素直なんだろ?」
そんな私を見てか、イタズラっぽく水城が笑った。
「そうですね。」
その笑顔に見とれてしまって、それを悟られたくなくて、私は無愛想な返事じかできなかった。

あー、もう!
水城の言葉はずるい!!!

「…やっぱいいなぁ…」
私は自分でも聞き取ることができないような小さな声で呟いて、美咲と優奈の元へ駆け寄った。


5時間目は体育。


「ふー。食後の体育はキツイな~。」
美咲はそう言いながら運動靴に履き替えた。
「お腹痛くなるよね…。」
優奈もそれに同意。
…今日の給食ボリュームあったからね……。
私は、満腹と寝不足でものとてもしんどかった。

「杏奈、顔色悪いですけど…?」
先を歩いてた美咲が振り返って心配そうに私の顔を覗き込む。
「え? 大丈夫だよ~。」
私は明るく振舞った。
悟られないように。
心配かけないように。

今日の体育は男女とも運動場で、男子がサッカー、女子がソフトボール。
午後の日差しはキツイ。私は外野をしていた。

外野は特に動く事が無かったので、男子のサッカーを眺めていた。
…というか、水城の姿を探していた。
私が水城を探すのに夢中になっていると、
「 杏奈――― !!! 」
ピッチャーの優奈の声が聞こえた。

その声につられた降り返ると、ボールが私を超えようとしていた。
私はボールが落ちる前に拾おうと、ボールだけを見て走った。

その時の私は、ボールに夢中になりすぎて忘れていた。
運動場で男子もサッカーをしていることを。


ドンッ !!


ボールだけをみて周りを全く見ていなかった私は、ボールをキャッチする直前、サッカーボールを追いかけていた男子と勢いよくぶつかった。
寝不足で体がだるかった私は、その衝撃で気を失ってしまった。