さよならさえ、嘘だというのなら



【考えろ】
【命はひとつ】
【生きてこそ人生】
【死んだら終わり】

ドロン山の入口は
そんな立て札のオンパレード。

町長の自信作品。
達筆すぎて余計不気味。

凪子は白い長そでのワンピースを着て、それらの立て札をひとつひとつ丁寧に見ていた。

ここに来るのは久し振りだ。
小さな山の入口は小さな公園。
この山は入り組んでいて
迷子になるから入っちゃいけないけど
公園では桜の花が綺麗に咲き
隣に町のシンボルともいえるプルミル工場もあり
オレンジの夕焼けが良く似合う山。
子供の頃から見ている景色だけど
今までにどのくらいの人間を飲み込んだろう
想像するとゾッとする。

「須田」
凪子に駆け寄ると
凪子は涼しい顔をして「来てくれたんだ」と笑顔を見せた。

俺はホッとして凪子の袖を引っ張り、近くのベンチに誘って座る。

よかった。間に合った。

「すごい汗」
白い小さなバッグから凪子はハンカチを出し、俺の額の汗を拭く。
微かに香るミントの香りが夏の熱気を和らげる。

「俺、昨日から……チャリ……飛ばしっぱなし」
肩で息をし
途切れ途切れにそう言うと「ごめんね」って小さく言う。

額から降りた彼女の手をハンカチごと握る。

冷たい手をしていた。