「モミジがキレイだね」

奈々が紅く染まった山を見上げる。

「田舎の唯一良いところは紅葉がキレイなところだと思うの」
そして私を覗き込む。
「ねえ、聞いてる一花?」
「聞いてるよ」
「空ばっか見てるじゃん」
「私は紅葉より空の方がキレイだと思っとる」
「えー?空まで見んなあ」

そう言って空を見上げて、あ、確かにと言う。

「何で山は見るのに空まで見んのんよ」
「だって、紅葉がキレイじゃけえ空までいかんよ。一花は変わっとるね」
「そうかなあ?」

そう言いながらもう一度空を見上げる。

やっぱり秋の空はキレイだ。

その中でも、中学校の校舎のある丘からの夕空が一番好きだった。

私の記憶の中で一番キレイな夕空を見た数日後、私はそこからの夕空を一言でキレイだとは言えなくなった。