この街に越してきて、一度も青い空を見たことがない。
 ハルは浅くため息を吐き、低く淀む鈍色の空から視線を戻した。一年通い慣れた道を通り、大通りの信号で立ち止まる。同じように信号待ちをする人々に混じり、憂鬱な一日の始まりを感じてまたため息を吐いた。
 信号が変わり、周りの空気が動き出す。ハルも足を踏み出した瞬間、街中に鐘の音が響いた。
 いつもこの場所で聞く重く腹に響く鐘の音に、ハルは足下をとらえていた視線を遠くにそびえ立つ時計塔へ向けた。
 この街に引っ越すことを決めたのは、あの街のシンボルとも言える時計塔があったからだ。