*芹沢村*
そうして次に桜海嶺の芹沢村へと向かった。
水の神社で墓参りを済ますと神主が芹沢のことを話した。
「芹沢君はよくこの水の神社でサーフィンをするので巫女が怒っていたのも遠い昔の話ですね」
「まだよく思い出せません。私は彼を愛していたのでしょうか?」
セリカが不安そうなのに対して神主は「とても仲良くしていましたから、愛していた筈ですよ。薄雪がその証でしょう」とにっこり。
そう言われるとそんな気もする。
仕事があるのでと日本に置いてきた今の夫が傍にいないのも不安なのだが。
「私、やっぱり日本に帰る!こんな曖昧な気持ちじゃ主人にも悪いもの」
そうしてセリカは日本に帰って行った。
「ママは放っておこう」
薄雪は好奇心からか祖父母の惑星にとどまった。
「芹沢って人が薄雪の実の父親なの?」
薄雪は神主に訊ねる。
「そうです。良い子でしたよ。やんちゃではありましたが」
「そっかー」
「いつでも帰ってきなさいな薄雪姫」
神主はそう慰める。父の面影を知らぬ娘へ。
「ここ芹沢村が薄雪の故郷。いつでも帰ってきなさい」
「ありがとう神主さん」
薄雪はあたたかな気持ちに包まれて神社をあとにした。
「ママは神経質なんだよ。せっかちだなあ」
煎餅をかじりながら薄雪が桜庭の家で話す。
「それだけ今のお父さんを愛しているのですよ。芹沢君は過去の人ってところかしらね」
リーザがほうじ茶を湯呑みに注ぐ。
「そっかあ」
またまた同じことを薄雪が繰り返し答える。
「その証拠に全然寂しくはないでしょう?」
「うん」
芹沢は過去の人だ。薄雪を育てた父は日本にいるし、幸せであるので特に寂しくはない。
私は、薄雪は旅をする。この惑星を。この惑星は不思議に満ちていて、実は宇宙人だった自分のルーツを求めて旅をする。
ここは祖父母の世界。愛する祖父母と両親の。
二〇一五年三月、この世界はとても輝いていた。
ここは惑星エーデルヴァイス。薄雪の名前にちなんだ惑星。
薄雪の本当の故郷。不思議な世界で楽しい思い出の国。
ひととおり旅を済ませると薄雪も日本に帰った。祖父母をこの惑星に残して。
これで、これで良かったのだ。三月に薄雪は巣立つ。
六月には二十歳になる。適齢期だと思うだろう。