*セリカ*
「あらあらまあまあ何ということかしら」
セリカは伯爵家の大広間でびっくりしていた。ヘンリは何を驚いているんだと訊ねた。
「だってお父さん、今いる世界と日本、あまり変わりないよ?」
セリカはそう言う。
「二〇一五年から数千年経ってる未来なんだよね?おじいちゃん」
薄雪も不思議がる。それはもう違和感なく溶け込めているくらいに。
「そういう時代を選んだのですよ。何というか非常に親近感を覚える時代でしたから」
リーザが説明する。庭の桜の花が咲く頃、日本人は大広間でおおはしゃぎ!
薄雪とセリカはなんだか居心地が良さそうでとても楽しそうにはしゃいでいる。
「実はセリカは昔、突然、この世界にやってきたんだ」
ヘンリが昔話をする。
「どういうこと?」
セリカはよくわからなさそうにしていた。
「父さんの生家で、庭でやはり桜の花が咲く頃、夜、突然赤ちゃんの泣き声がした。それがセリカだよ。父さんたちは役場に父さんたちの子供として届け出たけどね」
そこでセリカは絶句した。
「なにそれ。お父さんたちの本当の子供じゃないってこと?」
ヘンリは落ち着いて話し出す。
「ヴァルキューレの末娘が無限の夢世界、パラレルワールドを旅していて、父さんと母さんの子供らしい。お前は母さんに似ているし、実の娘だと思うだろう」
「うん?ちょっと待って?記憶がごっちゃになってきたけど、確か中学三年生の頃、セリカはこの世界にいた?」
セリカは昔、オーディンと母の弟であるユリアンに会ったのを思い出した。
「エリカおばあちゃんって確かこっちの世界の人だった気がする」
セリカは祖母のことを思い出した。
セリカは何かとてもショックなことがあって記憶をなくしていたようだ。
よく思い出してみると最初の夫の死だ。
「芹沢村の相模!」
サーフィン好きの夫、芹沢相模が海で死んでしまったのだった。
「お父さん、心配して、日本に向かったのですよ。ここの世界と似てますから、療養を兼ねて」
「なんで相模のこと、今まで忘れていたんだろう?」
「それだけ彼のことを愛していたからですよ。彼との子、薄雪がいたから寂しくはないでしょうけど」
セリカはちょっとしんみりした。
「でも二十年近く前の話よね。そうかあー」
「お帰りなさい?」
薄雪が不思議そうに訊ねたので母のセリカは「ただいま」と言った。
月日の流れが自然で、緩やかでセリカの傷を癒して。