*リーザ・フォン・エーデルヴァイス*

宇宙人のリーザ・フォン・エーデルヴァイスはヘンリ・ジュン・ハワード・バールバラ伯爵の大切な女性だ。
二人の娘のセリカ・ディル・サクラバも孫の櫻庭薄雪もその係累にあたる。
ある日、ひな祭りの人形を出していた祖母のリーザが薄雪に話しかけた。
「今年もお雛様が近くなりましたね。そのあとは薄雪姫お待ちかねのホワイトデーですね」
穏やかな表情でリーザが語りかけるので薄雪は祖母にこう話しかけた。
「おばあちゃんはおじいちゃんからチョコレートのお返しをもらうの?」
そうニコニコと。
「ヘンリおじいちゃんは生真面目ですから、律儀に何か用意しているかもしれませんね」
そう祖母ははにかむ。穏やかな表情がさらに穏やかな表情になる。
「おじいちゃんとおばあちゃんは宇宙人なの?」
薄雪がさらに言葉を交わす。
「おばあちゃんたちは確かに宇宙人ですが、セリカと薄雪は日本人ですね」
リーザがそう答えたので薄雪はなぜかホッとした。
「みんなには内緒ですよお?」
そこで二人は吹き出した。
宇宙人に育てられた日本人の女の子に。
「宇宙人かあ」
薄雪は笑う。なんだか自分がとても滑稽だからだ。
「おじいちゃんとタイムトラベルをしていたのですよ。たまたまこの時代を選んでこの世界に残りました。」
リーザはそう説明する。未来の世界からやってきたのだと。
「未来には宇宙人がいっぱいいますからね」
そう付け加えて。
「未来には宇宙人がいっぱいかあー」
なんだか想像するとおかしかった。
この一見普通の奇妙な家庭は薄雪にとってとてもおもしろかったのだ。
足が八本あるエイリアンも未来にはいるのだろうか?
ぽえーんとか言ったりするのだろうか?
「おばあちゃんはこの時代に溶け込むように努めて参りました」
確かに祖母はそうだろう。
祖父母がまともに生きてきたからこの普通のありふれた日本人の暮らしが薄雪にあるのだから。
だから薄雪は日本人として生きようと思う。
この愛すべき家庭に、この愛すべき世界に。
この世界はとても不思議でいとおしい。時にとても切ないほどに愛らしい。
摩訶不思議な世界に生まれて生きてどこへ行くのか。
その旅路の行く末を見守って生きよう。
平穏な、一見ごく普通のありふれた家庭を愛しながら今を生きて行く。
今年もひな祭りが近い。そんな季節に春の訪れを感じながらまったりと。