*アルペン・エーデルヴァイス*
【序章*薄雪姫の物語】

二十年後の君へ何を贈ろう。
今年の六月に君は生まれて二十歳になる。
二十年と、時は巡れど記憶は鮮明で思い出はとても美しく甘美ですらある。
リーザはヘンリと共に雪の降りしきる道を歩き港町の家路へと着く。
外は薄暗く夕方だ。帰宅すると二人で海鮮鍋を作る。
やがて鍋ができる頃、孫娘が帰ってくる。
「ただいま!」
孫娘がコートの雪を玄関で払い、両親にそう告げる。
孫娘は十九歳で今年の六月八日に二十歳になる。
祖母のリーザは六月十日生まれで二日違いで誕生日を迎えるので、六月は二回誕生会を開くことになる。
孫娘が生まれたのは一九九五年六月のことで今は二〇一五年二月だ。
バレンタインが近づいているので、孫娘が鞄から生チョコレートの入った袋を冷蔵庫にしまう。
バレンタインにボーイフレンドに渡すのだろう。
孫娘の薄雪は居間の堀炬燵に座るとすこしうっつらした様子であった。
「今日はとても寒くて疲れたでしょう?」
祖母のリーザは孫娘の薄雪に優しく語りかけながら、鍋を食卓へ置いた。
「雪が積もってると気分的にはなんだか楽しいけどね、おばあちゃん」
十九歳の孫娘はそう言いながら鞄から更にチョコレートを出す。
「今日はちょっと疲れたから食後にチョコレートでもお茶と食べようと思って買ってきたの。おばあちゃんとおじいちゃんも後で一緒に食べよう」
薄雪はテーブルにチョコレートの箱を置くと微笑んだ。祖父母の表情もとてもやわらかであたたかい。
「薄雪姫はチョコレートと申すか」
祖父が優しげに語りかける。
「バレンタインまで毎日チョコレート祭りだよー」
薄雪はそう笑いながらチョコレートの箱を開けた。
中身はドリアンミルクチョコレートであった。
「これはマレーシアのお土産みたいだよ」
「ふむふむ」
聞けばデパートで物産展があったらしく物産展で買ったとのこと。
なにぶん珍しい品なのでいったいどんな味がするのやらと鍋をつつきながら談笑する。
食後に祖母が紅茶をいれてくれたのでドリアンミルクチョコを三人で食べてみた。
「結構美味しいものね」
祖母がまずそう述べた。
「これはいい意味で期待を裏切らなかったね」
次に祖父が美味しそうに食べながら言葉に出した。
「実は以前、友達のお土産で食べたことがあって、結構美味しかったのよね。それでたまたま物産展で売っていたから買ったの!」
孫娘が経緯を話す。なるほどねと祖父母。
薄雪はとても上機嫌でニコニコしていた。
やがて両親が帰宅する。
そんな真冬のとある晩のお話。
今年で二十年という月日が孫娘を成長させた。
孫娘が成人するのももうすぐだ。
これはエーデルワイスの和名から名付けられた薄雪という名の娘の物語。