「あたしは殺せても、あの女は殺せないの?」


薫子が聞く。


俺は答えられなかった。


体中が小刻みに震えていて、声も出せなかったのだ。


薫子は笑顔のまま頬に刺さったカッターナイフを自分の手で引き抜いた。


その傷口からは透明な液体が流れ出てきた。


瞬間、刺激臭が部屋中に広がる。


薫子の甘い香りもかき消された。


ホルマリン……!


一瞬にしてその言葉が浮かぶ。


確か生物の授業で習った事がある。


ホルマリンという腐敗を防止する薬品には、強い刺激臭があると。


薫子の頬から流れ出していた液体は、ある程度まで流れるとその流れを止めた。