「何言ってんだよ。このままじゃ部屋に入れないだろ?」


できるだけ穏やかな口調でそう言う。


しかし、脳裏には今日聞いたばかりの恐ろしい噂が思い出されていた。


「だって、燈里帰ってこないんだもん」


「は……?」


今度はキョトンとしてしまう。


何を言っているのかわからない。


「今帰ってきたところだろう?」


「あたしにどこに行くか言わなかった」


薫子の声は怒っているように聞こえる。


行先を言わずに出たのが嫌だったようだ。


俺は小さくため息をはきだした。