柚子と亮真は駅の柱に隠れてあの忌々しい小太りの男を見ていた。男が切符を買おうと財布を取り出す。それは紛れもなく柚子の父親の財布だった。歩いてきた優真に囁く。
「間違いない、右のポケットに入れた」
それを聞いた優真は不適に笑い、改札を通っていった。普段通りの電車。相変わらず混雑していた。優真の左横には中年の男。優真は男のポケットにそっと手をやり、財布を抜き取った。
町田駅で降りると、柚子達の待つ駅へと戻った。
「谷村、スリの才能あるんじゃないの」
「満員電車の中だから余裕でした。それにしても普段乗る電車が同じとは‥‥」
真相が明かされたとき、優真は思い出した。電車の座席に缶ビールと煙草を残したマナーの悪い男。それが今回の犯人だったのだ。
「とにかく、二人ともありがと!」
そう言って柚子は優真から財布を受け取った。
こうして、奇妙な手紙から始まる事件は無事解決したのだった。