ヤオは無の國を去ったとき、




ーこの國には何もないー




と、低い声で、忌々しげに、恨めしげに、憎たらしそうに呟いた。

そう呟いていたのを彼は知っている。その呟いていた彼の背中を、声を、口調を覚えている。

忘れれるはずもないだろう。


「・・・・何もねェのが一体なんの問題がある」


吐き出す様にナキは声を漏らした。

空は綺麗だし、空気も澄んでるし、飯だって美味い。

そして、他の國と違って城主はいない。
だから税を納めなくても良いし、皆で力を合わせて日々を無理せず過ごせている。

そりゃ娯楽は無いに等しい。
それでも此処は良い所だ。

何も無いが此処は

争いさえ無いに等しい平和な場所なのだ

先の戦だって、火の粉はここだって浴びたが他の國に比べれば被害は少ないとこの國の者はいう。


「・・・・帰るか」


せっかくいい天気だから日向ぼっこでもして、のんびりダラダラ過ごしたかったのに
郷土資料なんざ読むんじゃなかった。

そう言いながら、よいっしょっと、草はらから立ち上がり帰路につこうとした時であった。








「あ、あの・・・・!!少々お聞きしたいことが有るのですが宜しいでしょうか・・・・!?」


聞いたことのない声の持ち主に後ろから声を掛けられた。


「・・・・たっく、人が帰ろうとした途端、何なんだよ」


自分でさえ聞き取りにくい小さな声でそう
呟いてナキはゆっくりと振り向いた。










さも面倒くさげに