「やっぱりいない…か」

約束の駅前。
今年も私はひとり花束を抱えて立ちつくす。
比呂くんは現れなかった。
駅前はいつも通り沢山の人で溢れている。
あの事故がなかったかのように。
もう誰も女子大学の死亡事故など覚えてないだろう。

花束を歩道に置きそっと手を合わせる。
怪訝そうな視線を感じるけど気にしない。

比呂くんのところへ急ごう。
私は走り出す。
ふと風が吹いて茉莉の好きなガーベラを揺らした。
なんだか彼女が私を笑っているように感じた。
『彼は私のモノよ』
どこからかそんな声が聞こえた気がして……
それを振り切るように私は全力で走った。