「ごめんなさい」


 その言葉を聞いたのは、もう何度目になるか分からない。

 謝罪の言葉とはまるでかけ離れた鮮やかな笑みを浮かべて、想い人は溜め息を吐く。


「いい加減、諦めたらどうですか?」


 今度は少し冷めたような口調で、また溜め息を吐く。


「…煩ぇ」


 俺はただそれだけ言って、自分とあまり変わらない体格のそいつをベッドに押し倒す。


「僕、貴方のこと…嫌いじゃないけど好きでもないですよ」


 そんなことは理解ってる。

 何度も言われたから。


 ――それなのに。


「あーあ。また彼氏に怒られちゃう」


 そう言いながらも俺を拒まないお前は一体何なんだ?


「ねえ。僕の代わりに怒られてくれます?」

「黙れ」

「冷たいなァ…。僕のこと好きならもっと優しくしてくださいよ」

「優しくしたら、俺のものになるのか?」


 いつものように何の屈託もない笑顔を浮かべて。


「――無理ですね」


 俺の耳元で呟く。


 それなのにどうして。


「何故俺を拒まない」

「何故でしょうね」


 俺の髪を掬って、口付ける。

 そして、不適に笑んで腕を頸に絡めてくる。


「シないんですか?」


「――黙れ」


 そうやって、うやむやな感情を抱えたまま抱くのは何度目だろう。

 口では俺を拒み、躰では容易に受け入れる。

 こんな関係は何も産み出さない。

 何も残らない。


 何も、手に出来ない。


 それでも。

 俺はこいつの存在を欲していて。

 その瞳に、どんなに別の奴が映っていても。

 この欲望は止まらない。


「ごめんなさい」


 と、無感情な笑みを見る度に。


「構わないですよ。僕が慾しいんでしょ?」


 そんなことを云われたアノ日から。

 俺達は、お互いの慾を埋める為だけに行為を重ねる。

 それはとても意味の無いこと。

 だけど。



 それだけが俺とお前を繋いでいる。

 報われなくても構わない。

 このままで良いとさえ思ってしまう程、俺はお前を…。


 慾しているのだろうか。
 

fin