帰ってくるなりあたしを抱きしめる翔の体からは、
翔の香水じゃない香りがした。






「離して…」



あたしの声は翔には届かない。

翔は何も言わずにあたしの服を脱がせた。




「やだ…やめて…」


誰かにもそうやって優しく触れたんでしょ?



「美華ちゃん、好きだよ」


誰かにもそんな甘い言葉を投げかけたんでしょ?







「どこにも行かないで」


あたしが言いたいセリフだよ。


あんたは適当に言えるよね。
何も思ってないから、言えるんだよね。




でも、あたしがそんなこと言ってしまったら


全部崩れてしまう。






ねぇ、翔…



あたし辛いよ。



居場所がどんどんなくなってく気がする。


あの店も、
きっといつかは翔もいなくなって、

そしたらあたしはどこで生きていけばいいの?