「ごめん、びっくりしたよな」


「うん…でも…
ごめん。
どんな言葉をかければいいかわかんない…」




「家出しても誰も探しに来てくれなかった。
東京きてよかったって思ったけど。
この前美華と沖縄帰ったらさ、
やっぱなんか帰りたくなっちゃってさ。(笑)
いい思い出なんてなんもねーのに。」


「あったんでしょ、ほんとは。
家族でいた場所だもん」



あたしがそう言うと翔は体を震わせて泣いた。

何も言わなかった。







「沖縄で、結婚したらここで暮らそうって言ってたでしょ?
あたし、いいよ。
沖縄で暮らしても。」


「え…」



「翔が過去をと向き合えたんなら、あたしも翔の過去を背負って生きてく。
もう覚悟はできてる。
ちゃんと、支える。」





「…美華、ごめん…」

「なんで謝るの」

「こんなこと、聞きたくなかったよな。
いい気分しねーよなぁ」

「ううん、聞けてよかった。
ありがとう。
あたし、翔の全部、知りたい。
全部受け止める。
翔があたしの弱さを支えてくれてるみたいに、あたしも翔の弱さを全部見せてほしい。
無理して笑うのも、もうやめて。
あたしの前だけではかっこつけないで。
翔が弱くても泣いててもかっこ悪くても好きなのは変わんない。
あたしはあんたのお母さんみたいにあんたを裏切らない。」


「愛と憎しみって紙一重なんだよ。
これ以上美華を好きになって殺したくなって、俺も父親みたいに…」「いいよ」


翔を抱きしめる腕に力が入った。


「いいよ。
殺せばいいよ。
あんたになら、殺されてもいいって言ったじゃん。
それに、翔は、翔は、お父さんとは違う。
あたしはお母さんとは違う。
あたしはあんたを裏切らないし、あんたはあたしを殺せないよ。」




翔は子供みたいに泣いてた。
あたしの胸で泣いてた。




「だってあたしもあんたも、一番欲しかった家族を壊せない。
ずっと夢見てた家庭を壊せない。
だから、大丈夫。
あたしたち、大丈夫だよ」