マナミと別れて、
あたしはタクシーに乗り込んだ。

ここ、昨日あいつと出会った場所だ。



タクシーの車窓から景色を眺めてそんなことを思ったりしていた。





「あのポスター、お嬢さんでしょ」

信号で止まり、タクシーの運転手がビルにかかる大きなポスターを指差した。


「うん。」

あたしは微笑んだ。










"幸せそうじゃない"

翔は昨日あたしにそう言ったけど


あたしなら幸せだよ。


だってこの街はあたしのもの。

あたしを知らない人はいない。
欲しいものはいつも誰かがくれる。

こんなにも大勢の人に愛されて
これ以上の幸せなんてきっとない。







だけど、どうしてだろう。


あたしは昨日から何か満たされない。



何か足りない気がしてならない。






あたしに足りないものなんてないはずなのに。