ただの客じゃない。
あんな特別な思いで行ったあの場所のことを
きっとマイさんも知ってる。
翔を知ってるのはあたしだけじゃない。
「美華、ごめん、俺……」
「言い訳なんて聞きたくないから!!!」
あたしはそう言うと、家を飛び出した。
きっと後悔する。
前と同じ。
それでも、翔が必要なのに
それなのに……
家を飛び出しても
あたしに行く場所なんてない。
マナミに電話したけど、仕事中なのか出ない。
とりあえず歌舞伎町でタクシーから降りた。
見上げれば大きな看板には当たり前のように翔がいる。
ずっとこの場所を離れない翔と、
その隣で微笑むマイさん。
そのうち雨が降ってきた。
「……戻らなきゃ…」
どこへ?
あたしが戻る場所は?
翔のいる家?
それとも、この看板の翔の隣?
あの店?
「やっぱここにいた」
