「ねぇ、翔。
あたしのこと話してもいい?」

「うん、突然だな(笑)」


あたしは翔の方を向き、翔の腕に密着した。


「翔に比べたらあたしなんてどうってことないことだと思うけど。

あたしね、親に捨てられたんだ」



「……うん」



「生まれてすぐのことだから母親の顔さえ知らない。
戸籍で母親の名前は知ったけど、父親の名前は書いてなかった。
耳に挟んだのはね、あたしの母親は地元じゃ有名な高級クラブの嬢だったんだって。
そこで知り合った客と寝て出来ちゃったのがあたし。
若かった母親は一人であたしを育てる自信がなくてすぐに施設に預けたんだって聞いた。」


「……うん」


「あたしが東京に出てきたのは、その母親が東京でクラブを経営してるって聞いたから。」

「そうだったんだ」


「それにさ、田舎ってこんなデリケートなこともすぐに噂になって広まるじゃん。
あたしを捨てた母親のことなんて知りたくもなかったのに、すぐに耳に入ってくる。
そういう場所から離れたかった。
18のあたしは母親のいる場所へ行きたかった」

「会えたの?東京で。」

あたしは首を横に振った。


「会えない。
名前は知ってるし、きっと少し探せばすぐ見つかるんだろうけど。
なんか怖くて。」


あたしはタバコをくわえた。
翔が火をつける。


「バカみたいだけどね、お母さんの方からあたしに会いに来て欲しかったの。
あたしが有名になって名前が知り渡ったら会いに来てくれる気がして。」




「お前、自分のことには泣かないのな。
俺のことでは泣いてばかりなのに」




「翔のことの方が辛かったから」



翔はあたしをギュッと抱きしめた。





「苦しさなんて比べられないよ。
俺の苦しみと美華の苦しみは全くの別物なんだから。」


「そうじゃなくて。
翔の辛い顔を見ることの方が、あたしは苦しい。」






きっと、これが愛。



翔のそんな顔、見たくない。

あたしのことなんて、
もうどうでもよくなっちゃったよ。







「俺ってそんなにかわいそうかな」

翔はフフッと笑った。

その笑い方すら、今は切ない。


「同情じゃないよ。
あんたのこと大切だからだよ」


「美華ちゃん、ありがとうな」



その言葉にまた泣きそうになった。