ケーキも食べ終わって、
翔は立ち上がった。



「寒いのに付き合ってくれてありがとな。」



あっという間の時間。

さっきまであんなにこいつにムカついてたのが嘘みたいに、なんだか楽しかった。



「ううん。
あんたが誕生日なのに、ケーキごちそうさま。」

「今までで一番嬉しいプレゼントだった」


またこいつは。
調子のいいことばっかり。


「バーカ。
いろんな女から高価なもんばっかもらってるくせに。」

「そんなんじゃねーんだよ!
俺が一番欲しいのはこういうくだらない幸せ!」



…幸せ。

幸せって、こういうものなのか。



なんだかあたしまで温かい気持ちになった。



「お前、幸せそうじゃねえってさっき言ったけど、
今は少し幸せそうだよ」

「バカ!調子にのんな!
あたしはこんなちゃっちーケーキじゃ幸せなんて感じないから!」

あたしはそう言って笑った。
翔も笑った。



「じゃーな。
また歌舞伎町で会ったらよろしく。」



翔はあたしのマンションとは反対方向に歩き出した。

あたしも歩き出す。








……幸せ…?


幸せって、何…?





「翔!!!」


自分でもびっくりするくらいの声で
気づけば呼び止めてた。




「上がってけば?」


何、言っちゃってるんだろう、あたし。


「雪…降ってるし……」



こんなやつ、泊めたくなかったのに。

「え?」


やばい。
翔まで不思議そうな顔してる。



「ほら、誕生日がこんなんじゃ、さすがにかわいそうかなって…」


すると翔は「ラッキー」と言ってあたしの隣に駆け寄った。


「お前、冷酷人間って業界で言われてるのに全然優しいじゃん」



そう、あたしはこの歌舞伎町では
感情なんて押し殺してきた。


優しいなんて言葉、あたしには一番似合わないのに。



こいつにだけはいつものあたしでいられない。