店長の家に戻ってきたのはもうすっかり夜で、
店長はすでに仕事へ行ってた。



1人になりたくないのに…。





あたしは無造作に置いてあるアルバムに手を伸ばした。




二人で行った温泉、ディズニーランド、くだらない日常、
四人で行った海、飲み会…


思い出を見返しては、
やっぱり裏切れないと、翔のことは忘れようと決めた。


あたしはブレスを外してバッグの底に入れ、家を出た。



向かった先は、翔の店。



女優帽にサングラス。
完全防備してきたあたしは誰にも騒がれることなく店に入れた。


「翔指名」

あたしはそう言って、案内されたVIP席に座った。




こんな格好でも翔はすぐにあたしに気付いた。



「美華……」


あたしは、ブレスを返すつもりで来てた。




気まずそうにあたしの隣に座る翔。


VIP席は他の席とは違って半個室のような仕切りがあり、
まるで二人きりのような感覚にさせる。

ドキドキした。



「そんな迷惑そうな顔しないでよ、あたし一応客なんだけど。」


「迷惑なんて思ってないけど、びっくりした」


あたしのグラスに氷を入れる。


「これ、返す」

あたしはブレスをテーブルに置いた。


「こんなのもらっても迷惑。
店長にも疑われるし。
まずもうなんの関係もないのにこんな高いの貰えない」

あたしがそう言うと翔はフッと笑った。

「お前、現役の時はいろんなやつから貰いまくってたくせに」

嫌味くさい。
翔のこういうとこ、出会った時はイライラしてた。


「もうキャバ嬢でもなんでもないし。
ドレスもいらない。
でもあんなに大量持ってこれなかったから…「じゃー捨てていいよ」


翔の言葉が刺さる。



「必要ないならそのブレスも捨てろよ。
俺に返されても困るんだけど」




何も言い返せないあたし。