「なぁ美華」

もう馴れ馴れしく呼んでくる。


「泊めてなんて言わねーから、一つだけお願い聞いてくんね?」



翔はそう言うとあたしの手を引っ張って近くのコンビニへと入った。


さりげなく手を繋ぐのも、
さすがとしかいいようのないテクニック。

こうやっていろんな女の子をドキドキさせてんだろうなぁ。




そんなことを考えていると、
翔はあたしが吸ってるタバコと二つ入りの小さいショートケーキをレジに出した。


それからコンビニの前にしゃがみこんでそのショートケーキの箱の蓋を開けた。



「お願いって、これ?」

「そう!」

翔はニンマリ笑って、あたしにさっき買ったタバコを手渡した。

「なんであたしが吸ってるタバコ知ってるの?」

「コートのポケットから見えてた」


あたしは感心しながら翔の隣にしゃがんだ。


それから翔が食べてるケーキをあたしもつついた。



「誕生日にこんなちゃっちーケーキなんて、あたしたちには不釣り合いじゃない?」

「だよな。(笑)
でも俺、こういうの憧れてたんだよ」

「どういうこと?」

「店以外で誕生日ケーキ食うの。
初めてだから」

「小さい時、家族で食べたりしなかったの?」

「覚えてないなー。」


そんな他愛ない会話。

だけどあたしは少し
悲しい気持ちだった。



家族で食べたりしなかったの?なんて聞いたのは、
あたしが食べたことなかったから。


というか、あたしには家族がいないから。




「実は、あたしも店以外って初めてかも。ケーキ。」

「まじ?」

「うん。甘いもの好きじゃないし」

「俺も!って、今ケーキ食ってるけど!(笑)」

そんな翔を見て、あたしも笑った。



「じゃーさ、俺の誕生日、一緒にケーキ食ってくれたお礼に、お前の誕生日も俺が一緒にケーキ食ってやるよ」

「はいはい、遠慮しますー。」

あたし達はそんな冗談を言い合って笑い合った。


店以外でケーキを食べたことないというあたしに、何も聞いてこない翔。

それは何か勘付いてなのか、それともただあたしに興味がないだけなのか…多分後者なんだろうけど、なんとなく居心地がよかった。


こんなに自然と笑えたのはいつぶりなんだろう。

雪の降る寒い中で道端で二人しゃがみこんでケーキ食べてるなんて、
どう考えても歌舞伎町でNo. 1ホストとNo. 1キャバ嬢がすることじゃない。


少し現実を忘れられるような
そんな時間。