食人姫

水を飲んだ後、俺達は光に促されるままに、哲也の家へと向かった。


まだ明るいとはいえ、時間は限られているから、埃まみれの汗臭い服を着替えている暇はない。


「1000年前にそんな事が……山賊が殺したわけで、この谷の人は悪くないのに。どうしてこの土地の人を襲うんだろうね」


「それだよ!谷に化け物が出るなら、皆引っ越せばいいのにさ、なんでずっと住んでるわけよ!」


道の真ん中を、怒りながら歩く由奈。


そこで止めているけど、その言葉の続きは分かる。


引っ越せば、麻里絵が巫女にならなくて済んだのに!とでも思っているのだろう。


俺だってそれは思う。


麻里絵だけじゃない、このノートの持ち主だった小谷実香。


彼女も、引っ越していれば死ななかったかもしれないのに。


「きっと、何か事情があったんじゃないのか?」


もう儀式が明日に迫った今、何を言っても始まらない。


俺達が出来る事は、麻里絵が犠牲にならなくても済む方法。


最悪、何も思い浮かばなければ、儀式が始まる前に麻里絵を連れて逃げる。


誰にも言っていないけど、俺はそうしようと考えていた。