食人姫

「あうあ……お兄……お兄ちゃーん!!」


よほど怖かったのだろう。


ボロボロと涙を流しながら、光に抱き付く由奈。


「よしよし、もう大丈夫だからね。お父さん、大輔を家に運んで」


「あ、ああ。しかしお前達、夜に子供だけで戻って来るとは思わなかったぞ」


光と由奈のお父さんに肩を借り、なんとか立ち上がる事が出来た俺は、まだ震える足で歩き、光の家に向かった。


本当に怖かった……今までに味わった事のない、本当の死の恐怖。


散々バカにしていた、大人達が子供に言う「オバケ」に、殺されそうになるなんて。


「でも本当に良かったよ。儀式の日が近いから、皆警戒してたのが良かったのかな?もう少し遅かったら、二人ともどうなっていたか」


泣きじゃくる由奈の頭を撫でながら、光がそう言った。


光とおじさんに助けられて、恐怖で堰き止められていた思いが一気に流れ出す。


今の化け物は何なんだ。


谷の大人達は何をしようとしている。


そして光……お前はどうして俺達が知らなかった事まで知っているんだ。


色んな事が頭の中をグルグルと回り、この状況で何を聞いて良いかも分からない。


何も分からない俺には、何を尋ねるかすらも分からないのだ。