食人姫

親父さんが拳を振り下ろすより速く、実香の黒い手が伸びる。


俺に拳を打ち付けたと思っていた親父さんの顔色が変わった。


「なんだ……腕が動かねえ!!誰だ、誰が!」


実香の細い手が、大木のような腕を掴んでいる。


そして……。















「私は……こんな未来の為に命を捧げたわけじゃない!!」

















実香の顔が、怒りに満ちたものへと変化して行く。


それは表情だけではなく、その容姿までも醜く歪ませて。


「な、何だ!?その声は……忘れるはずがない!実香、実香なのか!?」


慌てたように辺りを見回し、その脇にいた実香と目が合った瞬間。

















実香は、親父さんに食らい付くと同時に、化け物へと姿を変化させた。


「あ」


と、親父さんが呟くと同時に、上半身が食いちぎられたのだ。


親父さんの腕が、俺の髪を掴んだままダラリとぶら下がる。


俺にもまだ、身体を支える力はなく、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。


残った親父さんの身体は……実香によって食い尽くされ、影も形もなくなってしまったのだ。


それを見ながら俺は……ゆっくりと目を閉じた。