食人姫

麻里絵が神社から離れたけど、まだ誰もそれには気付いていない。


谷はいつも通りの静けさを保ったままだが、闇に溶けた化け物が、俺達を食おうと隙を伺っている。


近付いて来ないと分かっているけど、命を狙っている化け物が近くにいるというのは、精神が擦り減る。


生命線は小谷実香の指だけ。


これがなければ、俺達なす術なく食われていただろう。


麻里絵を助けようとも思えなかったかもしれないし、仮にそれでも助けようとしてたなら、助ける前に食われていただろう。


「麻里絵、大丈夫か?」


どんな意味があって、そう言ったのか、俺にも分からない。


ただ、ここに麻里絵がいてくれる事が嬉しくて。


哲也が殺され、光は麻里絵の身代わりになったけれど、それだけが唯一の救いに思える。


「うん……でも、哲ちゃんが」


俺が木の枝を踏んでしまったのが原因で、警護に気付かれた。


あんなミスをしなければ、今頃……。











今頃何だ?


良く良く考えれば、当初の目的は麻里絵に指の欠片を渡す事だったのに。


警護に見付かってパニックになり、哲也と光に言われるままに麻里絵を助けたけど、この選択は本当に正しかったのか。