食人姫

「は?」


哲也が言った言葉に、俺はそんな返事しか出来なかった。


何の冗談だと、半分笑いながら。


だけど哲也の表情は崩れない。


「さっきよ、集会所に言ったら聞こえたんだよ。『麻里絵には気の毒だが、あの子一人の命で谷が救われる』とかなんとかな。ありゃあ……マジだぜ」


こんな表情の時に、哲也が冗談を言うはずがない。


それだけ理解すると、全身からスーッと血の気が引くように、俺の頭の中は真っ白になった。


ただ、哲也の表情だけは覚えている。


少し悲しそうで、心配しているような目で俺を見ていた。


時間にして数十秒、ハッと我に返った俺は、哲也の横に腰を下ろして笑って見せた。


「……聞き間違いだろ。それに、哲也が聞いたなら、その場で確めるはずだろ?悪い冗談はやめろよ。さてはお前、麻里絵が好きなんだろ」


どうにかして、そんな話は嘘だと言わせたかった。


「中に入って、今の話はどういう事だって聞こうとしたけどよ、分かるか?この谷のおっちゃん達が、とんでもねぇ殺意を俺に向けてたんだよ。目は笑ってるけど心は笑ってねえ。あの場で聞いてたら、俺はマジで殺されてたかもしれねえんだよ。情けねえけど、ビビっちまった」