食人姫

哲也の親父さんが泣いている間、俺と麻里絵はその場から動く事が出来ずに。


さっきまで生きていた哲也が、突然身内の手によって殺された。


訪れた死は、劇的なものではなかった。


あっさりと、それがさも当然のように命が散らされてしまったのだ。


「哲也……」


麻里絵の口に当てている手を緩めて、俺はただ泣いていた。


勝手に涙が溢れて、頬を伝うように零れ落ちる。


俺はどうしたら良いんだ。


麻里絵を助ける為にここまでやって来て、その代償に哲也を失った。


俺があの時、木の枝を踏んで音を立てさえしなければ、当初の予定通り警護の交代の隙を突いて麻里絵を救出出来たかもしれないのに。














こうなったのは、全部俺のせいだ。















そんな俺が、哲也を見殺しにしてまで麻里絵と逃げて良いのか。


……いや、ここで逃げなきゃ、哲也の死は本当に無意味なものになる。


都合の良い事を考えていると分かっているけど、哲也も光も、命懸けで麻里絵を助けようとしたんだ。


だったら、俺も麻里絵を命懸けで助けないと、会わせる顔がないじゃないか。


流れる涙を拭い、麻里絵の手を取ると、俺は歩き出した。