食人姫

この凄惨な光景を目の当たりにして、俺と哲也はそこから一歩も動けなかった。


今襲われているのは、儀式を済ませていない人達ばかりで、儀式を経験した人達の多くは集会所の前でそれを見ているだけ。


まるで……勝浩の亡骸を、さも当然のように眺めていたあの時と同じ。


それもそのはずだ。


集会所の前にいる人達の中には、鳥居の前にいた人達の姿もある。


この谷には儀式は必要なんだと、反対派の人達にも、俺達にも思い知らせるには十分な出来事だった。


「だ、大輔、どうする。俺はどうすればいい!?誰が正しくて誰が間違ってるんだこりゃあ……分かんねえよ!」


小声で、だけど強い口調で俺に尋ねる。


その風貌からは想像もできないくらい怯えて、今にも泣き出してしまいそうな表情だ。


生け垣の隙間から集会所の様子を伺っていた俺は、皆が集会所の中に入るのを確認して、哲也の家を指差した。


「一度戻ろう。ここも安全とは言えないだろ」


出来るだけ冷静に、冷静にと思っていたけど、まだ聞こえる悲鳴が恐ろしくて。


一刻も早くここから離れたいというのが本心だった。


哲也がそうでなければ、俺の方がパニック状態になっていたはず。