食人姫

だけど、前回も同じように揉めたのなら、いがみ合っててもおかしくないはずなのに、普段は不思議なくらい皆仲が良い。


まるで、こんな衝突は存在しなかったかのように。


「これだよ……この殺気に俺はビビったんだよ」


哲也が、ゴクリと唾を飲み込み、額に滲む汗を手で拭って呟いた。


殺されなくて本当に良かったよ。


この爺ちゃんの行為は、反対派を黙らせるだけじゃない。


こちらにはお前達を殺してでも儀式を実行するんだという信念というか、覚悟のような物が感じられた。


「大丈夫か!病院に連れて行ってやるからな!じじい!絶対儀式なんてやめさせてやるからな!覚えてろ!!」


「ふん!病院なんかに辿り着けるわけがないじゃろ!」


あれだけ騒いでいた反対派の人達が、蜘蛛の子を散らすかのように去って行った。


爺ちゃんの脅しは、脅しじゃないと判断したからか。


でも、病院に辿り着けないってどういう事だ?


「これ……何なんだよ。本当にあののんびりとした谷で起こってる事なのか?」


出来れば夢であって欲しいけど、どうもそんな雰囲気じゃないという事は肌で感じる。


そして……哲也の爺ちゃんが空を見上げてニヤッと笑ったのを見て、俺はその笑顔に恐怖を覚えた。